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波多甕井神社

はたのみかい




  祭  神:甕速日命
  説  明:案内板などはありませんでしたが、拝殿に、
      「式内大社・波多甕井神社」とありました。
       延喜式神名帳では、「甕」は、「瓦偏」に、「長」と表記さ
       れているようですが、拝殿の案内に従いました。
  住  所:奈良県高市郡高取町大字アヅキ谷235
  電話番号:
  ひとこと:ご祭神の甕速日命は、伊邪那岐神が、妻の死因となった、火
       の神・迦具土神を斬った時、凶器となった剣のもとの方から
       したたり落ちた血が岩に走りついた時に化成した神様です。

       日本書紀一書(第六)では、剣の鍔からしたたり落ちた血が
       化成したのが、甕速日命で、建甕槌神の先祖である、もしく
       は、甕速日命・ひ速日命・建甕槌神の順番で生まれた、とし
       ています。
       つまり、この神様は、建甕槌神と縁が深い神様だとしている
       わけですね。

       国譲りの段では、
      「稜威雄走神の子の、甕速日神、その子のひ速日神、その子で
       ある武甕槌神」
       とあり、建甕槌神のおじいさんが、甕速日神というわけです
       ね。

       志賀剛著・思文閣出版「神名の語源辞典」によれば、この神
       社の名の語源は、
      「畑村の飛鳥川の上流に滝があり、滝ツボが深い『かめ(瓦偏
       に長)』の井戸のようになっている。この上に式社があった。
      『かめ(瓦偏に長)』は、甕とも書き、酒を造るための大きな
      『かめ』である。」
       としていて、もともと、滝壺・井戸をお祀りした神社だとい
       えるでしょう。

       というわけで、この神社は、、「水」をお祀りした神社だと
       いえるのですが、ご祭神の、甕速日命について、もう少し詳
       しく見てみましょう。

       火の神であるところの、迦具土神の血からは、日本書紀各書・
       古事記を見ていると、実に様々な神様が生まれています。

       例えば、
       一書(第六)では、まず、経津主神の先祖であるところの、
       天安河の「岩」群、そして、甕速日命・ひ速日命(建甕槌神)
       磐裂・根裂神、磐筒男命、暗おかみ、闇山祇、闇罔象の各神
       が生まれた、とされています。

       つまり、岩群。
       磐裂・根裂・磐筒男命もやはり、「磐・岩」に関連する神様
       なんでしょうね。

       暗おかみ神は、谷間を走る水の神様だと言われます。

       闇山祇神は、山の神様ですが、「闇」がついていますから、
       樹木の茂った山・・・でしょうか?

       闇罔象神というのは・・・。
       罔象女神が水の神様であることを考えると、やはり水の神様
       ではないかと想うのですが、なぜ「闇」?
       いろいろ想像はしてしまいますが、深い池や湖の色は暗く、
      「闇(くら)」という字を冠したくなるような気もします。

       つまり、この書だけでも、岩・水・山などの神々が化成して
       いることがわかりますね。

       それじゃぁ、甕速日命は?

       本居宣長は「古事記伝」で、「甕速火命」を、「美迦波夜
       備」と訓べし、と書いているようです。
       つまり、「みかはやび」と読むわけですね。
       
      「甕」は「みか」と読むんですね。

       でもって、「みか」は、「御厳」に通じて、結局、「甕」
       は、すばらしく厳(いかめ)しいことを示す言葉と取られ
       ることが多いようです。

      「速」という字は、その字の意味通り、「速い」ことを表し、
      「日」は、霊威がすばらしいことを示した尊称か、もしくは、
       そのままずばり「太陽」のことだ、と言うわけです。
       そんなわけで、太陽光の神様であるとか、雷の神様である
       とか言われます。

       ひ速日神は?

      「ひ(火偏に「漢」のつくり)」は、「火」に通じ、「速日」
       は、甕速日神と同じですね。

       つまり、火の神様だといえそうです。

       そうすると、この二神合わせて、「落雷による出火の神様」
       といえるかも知れず、この神社の起こりである、「甕井」
       を考えると、ご祭神は、その「井戸の水」によって、消火さ
       れてしまう関係となってしまいます。

       あれ?
       でも、雷と水(雨)という関係だと見たら、ぴったりですね。

       それに、雷と雨にしても、水に映る雷にしても、美しいイメ
       ージです。

       え?雷と雨は美しくない?そうかな(^^ゞ?

       私達は、夏の激しい上昇気流が、積乱雲=入道雲を発生させ、
       この入道雲の中に含まれる、氷などの結晶同士の摩擦により、
       電気が発生し、雷となる。
       同時に、積乱雲は雨も降らせる、という知識はありますが、
       昔の人は、「雷が雨を呼ぶ」と感じていたのではないでしょ
       うかね。
       だって、雷がゴロゴロ言い出したら、「お、一雨くるぞ」と
       思うでしょう?

       雷が雨を呼ぶ、と表現した時、このコンビは美しいと思いま
       せんか?

       もしかしたら、「甕」井だから、「甕」速火命をお祀りした
       というだけかもしれませんが・・・(^^ゞ

      「井戸(穴・滝壺)」は、異界への入り口である、という発想
       はあちらこちらで見られます。

       日本書紀では、「井光」という国神が井戸からでてきた、と
       ありますし、皿屋敷のお菊さんの井戸も「異界」に繋がって
       いる、ということだと考えてもよいと思います。

       不思議の国のアリスの兎穴も、「不思議の国」という異界に
       繋がっていました。

      「ひょっとこ」のモデルであるところの「ひょうとく」は、滝
       壺の世界の女神がおじいさんにあげたものでした。

       そんなことを考えると、この「甕井」は、別天地なのかもし
       れません。

       自然の中にぽっかりと存在するこの神社、まさに別天地とい
       う佇まいでありました。 

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