kaidan

猫の怪




  採取地域:東京都新宿区
  ひとこと:
  原  典:耳袋
  登場人物:和尚さん 猫
  物  語:猫の怪談はいっぱいありますが、これは、その説明のような
       話。
       有名ですが、紹介します。

       寛政七年というから、西暦でいえば1795年、江戸の牛込
       山伏町のある寺院でのこと。

       鼠をとってくれるので、猫はとても大事にされていました。
       が、猫には鼠を捕って欲しいわけです。
       鼠を。

       そんなわけでしょうか?
       いや、和尚さんとしては、殺生を見逃すわけにはいかなかっ
       たのかも知れません。

       猫が鳩を狙っているのを見つけた和尚さんは、
      「これ、猫や」
       と声をかけました。

       はっと猫が振り向くと、鳩は猫に気づいて飛び立ってしまい
       ました。





       あ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
       今まで細心の注意で近寄って、少し飛翔すれば、捕まえられ
       るところだったのにぃ〜〜!!
       ちっくしょ〜〜〜!!

       でも、まぁ、いつも世話になってる和尚さんがやったことだ
       から諦めなくちゃいけないなぁ。
       あ〜〜〜あ。



      「残念なり」



       あっ!!!しまった!!!





      「猫や、お前、今なんか言ったかい?」

       しまったなぁ。やっぱり口に出してたかぁ・・・。


       猫は観念しました。

      「和尚さん、猫は10年以上生きれば、誰でもしゃべるんです
       よ。それどころか、14歳15歳を越えると、神変を得るん
       ですがね。それまで生きる猫はいないんですよ」

       なるほど。しかし、和尚さんはふとひっかかりました。

      「しかし、お前は、まだ10年も生きてないじゃないか」

      「それはですね。私は狐と猫の間にできた子ですから、10歳
       にならなくてもしゃべれるってわけです」

       なに?
       狐と猫で子供ができるのか??
       遺伝子は?
       染色体の数は合うのかよ〜〜〜〜〜??

       と、この時代の和尚さんは考えず、
      「了解した。
       まぁ、私しかこのことは聞かなかったわけだし、今までかわ
       いがってきたお前のことだから、これからもここにいなさい」
       と、鷹揚に、気持ち悪がりもせず、おっしゃったのでした。
       こういう人は本当にありがたいですねぇ。

       しかし、こんな肝の据わった和尚さんに対し、猫は三拝した
       後、出て行ったまま、帰らなかったのでした。

       どうなったのかなぁ。心配だなぁ。
       だってね、こんな話があるんですよね。
       カートヴォネガットの短編「トマス・エジソンのむく犬」

       トマス・エジソン氏のむく犬が、やはり、ふとしゃべってし
       まい、
      「犬は誰でもしゃべるが、しゃべれないフリをしている」
       ことを白状させられてしまうんですよ。
       なぜ、しゃべれないフリをしてるかって?
       だって、しゃべれることがわかったら、命令はちゃんと聞か
       なくちゃいけないし、大変ですからね。

       むく犬くんは、すべての犬の不利益をもたらしたわけで・・・

       むく犬くんがしゃべり終えた後、他の犬は・・・ってな話な
       んですよ。

       この、耳袋の猫、どうなったかなぁ・・・。
       寛大な和尚さんに類が及ぶのを畏れて姿を消したのかもしれ
       ないですね。元気でいてくれたらいいけどな。       

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